68-衆-公害対策並びに環境保全…-1号 昭和47年04月13日

昭和四十七年四月十三日(木曜日)午前十時三十二分開議
 出席委員
  公害対策並びに環境保全特別委員会
   委員長 田中 武夫君
   理事 始関 伊平君 理事 八田 貞義君
   理事 林  義郎君 理事 山本 幸雄君
   理事 島本 虎三君 理事 岡本 富夫君
      久保田円次君    浜田 幸一君
      村田敬次郎君    加藤 清二君
      細谷 治嘉君    古寺  宏君
      合沢  栄君    米原  昶君
  科学技術振興対策特別委員会
   委員長 渡部 一郎君
   理事 木野 晴夫君 理事 佐々木義武君
   理事 前田 正男君 理事 石川 次夫君
      大石 八治君    井上 普方君
      堂森 芳夫君    三木 喜夫君
 出席政府委員
        科学技術庁長官官房長     井上  保君
        科学技術庁研究調整局長    千葉  博君
        環境政務次官  小澤 太郎君
        環境庁企画調整局長      船後 正道君
        環境庁大気保全局長      山形 操六君
        環境庁水質保全局長      岡安  誠君
 委員外の出席者
        参  考  人(鐘淵化学工業株式会社常務取締役)     大橋 清男君
        参  考  人(三菱モンサント化成株式会社第三事業部長) 采野 純人君
        参  考  人(東京大学助手)      宇井  純君
        参  考  人(東京歯科大学教授)     上田 喜一君
        参  考  人(愛媛大学助教授)      立川  涼君
        参  考  人(都立大学助手)      磯野 直秀君
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本日の会議に付した案件
 公害対策並びに環境保全に関する件(ポリ塩化ビフェニール汚染問題)
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  〔田中公害対策並びに環境保全特別委員長、委員長席に着く〕

○田中委員長 これより公害対策並びに環境保全特別委員会科学技術振興対策特別委員会連合審査会を開きます。
 両委員長の協議により、私が委員長の職務を行ないます。
 公害対策並びに環境保全に関する件、特にポリ塩化ビフェニール汚染問題について調査を進めます。
 本日は、参考人として鐘淵化学工業株式会社常務取締役大橋清男君、三菱モンサント化成株式会社第三事業部長采野純人君、東京大学助手宇井純君、以上の方々の御出席をいただき、また、午後からは東京歯科大学教授上田喜一君、愛媛大学助教授立川涼君、都立大学助手磯野直秀君、以上の方々が御出席になります。
 この際、委員長から参考人の皆さんに一言ごあいさつ申し上げます。
 本日は、御多用中のところ本連合審査会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございました。
 申すまでもなく、わが国の産業は科学の進歩、技術の革新に伴って著しい発展を遂げ、国民の生活に寄与してまいりましたが、一方では、広く公害問題と自然環境破壊問題が起こり、国民の健康被害及び生命への危険を招くことになりました。特に、化学製品等のはんらんする中でPCBの汚染問題は、さきのカネミ油症事件をはじめとして、各地において人体への被害を生じ、大きな社会問題となっておりますが、その対策については、急務でありながらいまだ未知の分野も多いとされている状態であります。当連合審査会におきましても、参考人各位から貴重な御意見を承り、もって本問題の対策に万全を期する所存であります。つきましては、忌憚のない御意見をお述べいただくようお願い申し上げます。
 なお、議事の整理上、御意見の開陳はおのおの十五分以内といたしまして、あとは委員の質疑にお答えいただくようお願い申し上げます。発言の順位は委員長におまかせ願いたいと思います。
 それでは大橋参考人からお願いをいたします。大橋参考人。

[中略]

○采野参考人 三菱モンサントのほうにおきましても、まだ代替品は見出されておりません。研究室のほうで、何とかいいものがあればやることで検討はさせておりますが、まだ出ておりません。これにつきましては、先ほどから御発言がありましたように、毒性というような面を十分考慮いたしまして、あらかじめそういうものをチェックした上で新製品にするというような心がまえでやっていきたいと考えております。

○石川委員 有機塩素剤のかわりに有機燐酸とかカーバメート剤とか、いろいろお考えになっておられるようですけれども、どうもどれを見ても分析技術というものが確立されておらないという非常な不安がつきまとっておりますので、この点については代替品の場合には十二分に事前に慎重な考慮をお願いしなければならぬと思うのです。
 それで宇井さんにいろいろ質問したいことがたくさんあるのでありますけれども、何しろ時間がございませんで質問ができないのは非常に残念でありますが、御両社とも、お役所の御指導によってということをよく言っておるのですが、しかし、お役所の御指導がどういうものかといいますと、〇・七PPMの母乳でも六カ月程度であれば特に問題はないんだ、こういうことを厚生省は発表したわけですね。しかし、そのあとよく調べてみると、カネミは成人でもって五百ミリグラムから発病している実績のデータがあるわけです。赤ん坊にこれを換算すると、赤ん坊は抵抗力が弱いということも含めて考えますと、その目方だけの比率で考えても、〇・七PPMなら一日一リットルずつ飲んで三カ月で発病するというデータになるわけです。しかも抵抗力がきわめて弱い。こういうことははっきりしているのに、〇・七PPMなら問題ないんだということを言い切るという、非常にずさんで無責任なやり方は慨嘆にたえないのです。そういうお役所の御指導であればよろしいんだという企業の態度もそれに輪をかけているのではないか。みずからの責任を痛感してもらわなければたいへんなことだと思わざるを得ないのです。
 それで伺いたいのでありますけれども、話は全然別に飛躍いたしますが、実は食品添加物なんか私は前から取り上げておりますけれども、一品種について百万円しか予算がついていない。それからお役所の体制は国立衛生試験所毒性部でもってたった十六人の職員なんです。これで三百五十一種類、こまかに分ければ何千品目になる食品添加物の毒性やなんかを検査できっこない。だから、まず許可してましう。ちょっと検査して許可してしまう。許可したあとで何か問題があったら取り消す。こういうのがお役所の指導なんです。事前に慢性のほうまで十分に調べて、対応策を考えながら慢性というものも試験をした後にこれを許可するという体制ではないわけです。
 こういうふうな予算の少ないこともあります。科学技術庁の調整費を三千七百万もらって、やっといまのような研究調査が細々と出て、しかも急性だけで慢性のほうは全然手が届かないという状態でありますので、これは国の取り組み姿勢がきわめて怠慢であるといわざるを得ないのですが、新しい問題として、これは宇井さん御存じであろうと思うのでありますけれども、このじん肺の問題でアスベストがたいへん問題になっています。ところが、この肺ガンの原因になっているのがまたアスベストではなかろうか。しかも、世界のどこでも発見されない。都会の中の、東京都でこのアスベストの正体というものはからだの中から発見をされてきている。このパーセントが非常に高いのですアスベストが含まれているのが、日本の場合は大体四八・三%。アメリカあたりでもそういうことになっている。日本はもっと高い。ブレーキライニングなんかも問題になっている。これは新しい問題が、PCBと同じように、肺ガンが非常に激増しているという原因として発見をされようとしているわけです。こういうものに一体行政をどう対応したらいいのだ。これは、PCBの問題と同じ問題が次々に出てくるわけです。しかも国立衛生試験所の毒性部では、現在は十六人から若干ふえているかもしれませんが、こんなていたらくで一体国民の健康と生命を守れるのか。しかも一体どこが責任で、中心になってやるのか。こういう体制が全然もう五里霧中というかっこうになっておるので、これをどう考えるか。私のほうもちょっと考えあぐんでいるわけですが、宇井さん、何かお考えがあったらお知らせを願いたいと思うのです。

○宇井参考人 確かにおっしゃるとおりに非常に深刻な事態になっておりまして、この間の議論で、ここまではやれるがここから先はこういう考え方でいくほかはないというふうな大体の見当が私にもできてまいりました。それは、まずここまではすぐやれることではないかと感じますのは、新しい製品をつくるときに、それが何を使っているかということをまずやはり国民には知る権利があるのではなかろうか。企業秘密だから中身が言えないということでは、われわれの体内にどんなおそろしいものが入ってくるかわからない。やはり国民の立場からいたしますと、新製品というものはほんとうに安全なのかどうかを知る権利があり、つくるほうはそれをはっきりさせる義務があるというふうな考え方が根本に現在必要だろうと思います。
 その次に、今度は実際の政治の問題といたしまして、確かに御指摘のあるような行政の立ちおくれ、またこれまでの制度が不十分だったということを、私も別に告発する側としてではなくて、自分の仕事としてやはりそういう仕事に携わっておりますので、つくづく痛感いたします。環境庁とか厚生省とか、あるいはいろいろな研究所へ参りますのは、私どもの卒業生でございます。そういうふうな安全性の考え方がきちんとたたき込まれていない学生をこれまで出してきた私どもの責任を痛感するものであります。しかし、助手という立場におりますと、学生の教育には責任を持ってはいかぬというたてまえになっておるんだそうでございまして、私もそういうことでやむなく夜間講座を自分でかってに非合法に開いておるような次第でございます。現在の教授、助教授たちにはこういった毒性、環境という問題について全くセンスがないままに公害の研究費をとっているというのが残念ながら事実でございまして、この問題に対して私もやはり格闘をしている最中で、これがうまくいくかどうかちょっと見当はつきませんが、できるだけやってみようと思います。私どもが見ておりましても、こんな心がまえでいいんだろうかと思うような学生が環境庁や厚生省に就職していくのが現状でございまして、残念ながらこれは何とかして早いうちに直さなければならない。あるいは東京大学というものをなくしたほうがいいんじゃないだろうかとときには思ったりすることもあるぐらいでございまして、その点はこれからは努力していこうと思います。
 ちょっと横道にそれましたけれども、アスベストの問題、確かに御指摘のとおりでございます。しかも肺の中だけではなくて、胃のほうにもだいぶ入るらしいということをアメリカの学者が最近指摘しております。なぜ日本人は胃ガンが多いのかということが世界的に有名な事実になりまして、いろいろ調べてみたところ、一つの原因と考えられるのは、米のつき粉の中に微量のアスベストがどうもまじっていることが確かめられて、これが原因ではなかろうかという論文を、私、外国から送ってもらったことがございます。これはアメリカの研究ですが、アメリカで日本の胃ガンの研究をやってくれているというふうな現状でありまして、日本の危険物質の研究もこういうふうにはるかにおくれている。
 その上、ほかの機会にも私、申したことでございますが、日本は公害が一番ひどくなっておりまして、われわれのからだは一つでございますから、いろいろな毒物を受けとめております。それを外国並みの基準、外国並みの対策でいいはずは全くないのであります。ところが、学者にしましても行政にしましても、外国並み、アメリカ並、ドイツ並みだからいいだろうというふうなことをしばしば言います。生活の違いやそういった食品添加物などの条件の違いを考えますと、日本の基準は世界一きびしくてもおかしくはないのでありまして、そこの考え方をやはりきちんときめる必要がございます。先ほどの、〇・七PPMならいまのところ病気が出てないから赤ん坊に飲ましてもだいじょうぶだろうというふうなことを責任ある厚生省の係官が言うようでは、私ども心配でとても行政にまかせることはできません。といいましても、私の手元にあります分析の機械というのはきわめて限られたもので、結局われわれの食べるものを全部分析するというわけには事実上まいりません。そうすると、相当きびしい基準をそれぞれの物質について定める。それでもどうにもならない分がございます。どうにもならない公害の進行というものはやはりございます。これに対しては、やはり現実を直視するほかないと思います。
 たとえば、われわれがどれほどこれまで現実を直視してこなかったかという一つの典型的な例がこのPCBでありまして、カネミ油症の報告は、実は日本政府がこの六月にストックホルムで開かれる人間環境に関する国連総会に提出いたしましたナショナルリポートの中には一行も書いてないのでございます。水俣病やイタイイタイ病については、一部メチル水銀やカドミウムで健康障害が生じた地域もあると書いてあるだけなのでございます。こういうふうな事態の把握が日本政府がいま外に向けて出しておる報告でございまして、こういう把握では、おそらく公害の現状というものは、いままでの行政のワクの中でちょっと数字を操作すればできるだろうというふうな甘い対策しか出てこないのではなかろうか。やはり現実を、カネミの油症患者は一体何人あったのか、はっきりだれが見てもわかる患者が何人で、かすかでも何か普通の人と違う症状が何人出たのかというふうなことからもう一ぺん洗い直さなければ、この問題も先へ進まないように考えます。
 これは確かにかなりの部分まで私ども科学者の責任でもございます。それでもだめな分はどうするかということを実はよく外国へ行くと聞かれまして、いやわれわれ先に死ぬから、私のからだを引き取ってよく解剖して何がたまっているか調べてみてくれというふうな話をするのですが、その点でも日本はおそらく世界で一番汚染が進んでいて、この効果がここ十年ぐらいのうちに社会のトップに立つ人から出てくるのではなかろうかという危惧を持っております。先ほど、高級な食べ物ほどPCBが多いといった例がございますが、同じような問題が重なってまいりまして、社会のトップに立つ人に何かわけのからない病気がだんだんふえてきて、社会全体がつぶれるような事態にならなければいいがということを、いま全国の公害反対運動の人たちは真剣に心配しております。
 これはほんとうにお答えになりませんけれども、事態はそういうところまで来ているという認識からまず出発するほかないのではなかろうかというのが私の根本的な態度でございまして、そこまで腹をきめれば——また、これからあぶないものは一切使わない、PCBでも失敗したし、水銀でも失敗したのだから、もうあぶないものは一切使わないというふうな態度が最も科学的ではなかろうか。しかし、現に感圧紙やPCBがだめだから、何かわけのわからない、綜研化学のSKオイルというふうなものを、動物実験してみてもさしあたり変化がないようだからやってみますということが現に感圧紙では起こっておるのでありまして、それくらいだったら、多少不便でも、昔の手書きのカーボン紙でしばらく現状を凍結しておいて、その間にそれにかわる便利な物質、そして安全な物質をさがそうというのが科学的な態度ではなかろうかと考えます。

○石川委員 ありがとうございました。時間がないのでこれでやめます。

[後略]