34-参-本会議-15号 昭和35年03月31日

昭和三十五年三月三十一日(木曜日)午前十時四十五分開議
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 議事日程 第十五号
  昭和三十五年三月三十一日
   午前十時開議
 第一 農地被買収者問題調査会設置法案(趣旨説明)
 第二 補助金等の臨時特例等に関する法律の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)
 第三 昭和二十八年度から昭和三十四年度までの各年度における国債整理基金に充てるべき資金の繰入の特例に関する法律の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)
 第四 総理府設置法の一部を改正する法律案(内閣提出第四一号、衆議院送付)
 第五 農林漁業金融公庫法の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)
 第六 日本国有鉄道法の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)
 第七 裁判官の報酬等に関する法律の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)
 第八 検察官の俸給等に関する法律の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)
 第九 裁判所職員定員法の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)
 第一〇 放送法第三十七条第二項の規定に基づき、国会の承認を求めるの件(衆議院送付)
 第一一 道路交通法案(内閣提出)
 第一二 じん肺法案(内閣提出、衆議院送付)
 第一三 労働者災害補償保険法の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)
 第一四 参議院事務局職員定員規程の一部改正に関する件
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○議長(松野鶴平君) 御異議ないと認めます。まず委員長の報告を求めます。社会労働委員長加藤武徳君。
   〔加藤武徳君登壇、拍手〕

○加藤武徳君 ただいま議題となりましたじん肺法案及び労働者災害補償保険法の一部を改正する法律案につきまして、社会労働委員会における審議の経過並びに結果を報告いたします。
 昭和三十年第二十二国会において、けい肺及び外傷性せき髄障害に関する特別保護法が制定され、けい肺の予防措置を規定するとともに、けい肺または外傷性脊髄障害にかかった労働者に対して、労働基準法または労働者災害補償保険法による打ち切り補償の支給後さらに二年間、療養給付及び休業給付を支給する等、特別の保護が加えられることになったのでありますが、同法施行後二年を経過しても、大部分の者は依然として療養を必要とする状態にありましたので、昭和三十三年第二十八回国会において、けい肺及び外傷性せき髄障害の療養等に関する臨時措置法が制定され、引き続き療養を必要とする者に対しては、昭和三十五年三月三十一日までに、療養給付及び傷病手当を支給するとともに、政府は、けい肺及び外傷性脊髄障害にかかった労働者の保護措置について根本的に検討を加え、昭和三十四年十二月三十一日までに、けい肺等特別保護法の改正に関する法律案を国会に提出しなければならないこととされたのであります。議題の二法案は、これに基づいて昨年十二月国会に提出されたのであります。
 じん肺法案の要旨は、
 第一に、現行のけい肺等特別保護法では、けい肺のみを対象としておりますのを、石綿肺、アルミニウム肺等、鉱物性粉じんの吸入によって起こるその他のじん肺をも対象として、その予防及び健康管理を規定すること。
 第二に、じん肺の予防に関して、労働基準法及び鉱山保安法の規定によるほか、粉じん発散の抑制措置、呼吸用保護具の整備着用等、じん肺の予防のための措置について、労使双方の努力義務を定めるとともに、使用者は労働者に対して、じん肺の予防及び健康管理に関し必要な教育の徹底をはかること。なお、政府は粉じん対策指導委員を新たに設けて技術上の援助指導を行なうこと。
 第三に、労働者の健康管理のために、使用者は、常時、粉じん作業に従事する労働者に対して、その新規就労のとき及びその後定期的に、または新たに肺結核にかかったときにはその都度、それぞれ、じん肺健康診断を行なうこととし、都道府県労働基準局長は、これらじん肺健康診断の結果の資料の提出を求めて、じん肺診査医の診断または審査の上、労働者の健康管理の区分を決定すること。
 第四に、じん肺健康診断の結果、じん肺が管理区分三の者については、必要に応じ、都道府県労働基準局長は、粉じん作業からの転換を勧告して、じん肺の症状の進行を防止する措置を講ずるとともに、使用者は粉じん作業から転換する労働者に対して、転換手当を支払わねばならないこと。また作業転換の勧告を受けた労働者が企業内において作業の転換が行なわれがたく、離職せざるを得ないときは、政府は、職業紹介、職業訓練等について努力するとともに、さらに、これらの離職した者のために就労の機会を与えるための施設または労働能力を回復するための施設を設置経営して、その労働者の生活の安定をはかるよう努力すること。
 第五に、じん肺の予防措置等について、関係研究施設等の整備充実をはかるとともに、じん肺の診断については、じん肺診査医を置き、また労働省にじん肺審議会を設置して、じん肺に関する重要事項を調査審議すること等であります。
 次に、労働者災害補償保険法の一部を改正する法律案の要旨は、
 第一に現行労働者災害補償保険法では、業務上の傷病が療養開始後三年を経過してもなおらないときには、打ち切り補償を行ない、以後一切の補償を行なわなくてもよいことになっており、ただ、けい肺及び外傷性脊髄障害については、けい肺特別保護法及び同臨時措置法により、その後引き続き約四年間、療養給付、休業給付等が行なわれることになっていますが、本改正案においては、けい肺及び外傷性脊髄障害に限らず、潜水病、放射線障害等、療養開始後三年を経過してもなおらないすべての傷病について、必要な期間、打ち切り補償費にかえて長期傷病者補償を行なうこと。
 第二に、障害等級第三級以上の重度の身体障害を残す者については、従来の一時金による障害補償費にかえて長期給付金である障害補償費を支給すること。
 第三に、今回の改正により労働基準法による補償に相当する部分をこえる部分については、それぞれその一部を国庫が負担すること。
 第四に、現行の保険加入制度のままでは労災保険に加入し得ない事業場については、事業主あるいは事業場の労働者の過半数が希望するときは、事業主から特別保険料を徴収して、労働者に長期傷病者補償または長期給付金である障害補償費を労災保険から支給すること。
 第五に、現在けい肺特別保護法または同臨時措置法による療養給付等の支給を受けている者で、四月一日以降なお引き続き療養を必要とする者については、経過措置として、すでに受けた打ち切り補償費に相当する額を減額して長期傷病者補償を行なうこと。
 第六に、長期傷病者補償または障害補償のうち、長期給付金の支給を受ける者が、同時に厚生年金保険法等の障害年金等を受けることができるときは、その者に対する長期給付金の額は、これらの障害年金等のうち、国及び使用者の負担割合に相当する部分を減じた額とすること。またこれらの長期給付金については、全産業の労働者の平均給与額が百分の二十以上変動したときには、その比率を基準としてその額を改定すること等であります。
 なお、この改正案の内容については、将来社会保障に関する制度全般の調整がなされる機会には、これを検討して必要な措置を講ずることとし、この両法律案は昭和三十五年四月一日より施行し、けい肺及び外傷性特別保護法は廃止することといたしております。
 以上が両法律案の概要でありますが、労働者災害補償保険法の一部を改正する法律案につきましては、衆議院におきまして、長期傷病者補償及び遺族給付の一部の増額、並びに旧特別保護法または旧臨時措置法適用者に給付すべき長期傷病者補償を増額する等の修正が行なわれました。
 社会労働委員会におきましては慎重に審議を重ねました。質疑のありましたおもなる点は、
 じん肺法案につきましては、じん肺の予防、労働者の健康管理及びじん肺健康診断の方法、粉じん作業の内容を法律でなく省令にした理由、作業転換を行なった者の健康診断、作業転換の勧告及び転換手当の額、じん肺が治癒して管理区分の変更された者の取り扱い方、じん肺審議会の組織と権限及び本法施行上必要な予算等について。
 次に、労働者災害補償保険法の一部を改正する法律案につきましては、職業病の定義及び業務上の疾病との相違、打ち切り補償費にかえて長期傷病者補償を行なう理由、長期傷病者補償を行なう期間の解雇制限及び傷病給付を第一種、第二種と区別する理由、国庫で費用の一部を負担する理由、長期給付金と厚生年金保険法等による障害年金等との併給及び遺族給付の漸減支給及び年金化等についてでありますが、詳細は委員会会議録により御承知願いたいと思います。
 かくして質疑を終了し、討論に入りましたところ、自由民主党を代表して吉武委員より両法律案に賛成、日本社会党を代表して坂本委員、民主社会党を代表して片岡委員より、それぞれ両法律案に反対の旨の意見が述べられました。続いて、両法律案について順次採決を行ないましたところ、両法律案とも多数をもって原案の通り可決すべきものと決定いたしました。
 次いで、吉武委員より、各派共同提案によって、両法律案に対して次のごとき附帯決議を付することの動議が提出され、その趣旨の説明がありました。
 附帯決議文を朗読いたします。
   じん肺法案に対する附帯決議
  政府は、じん肺法の実施に当っては特に予防対策に重点をおき、労働衛生全般について適切なる指導を行うべきである。
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   労働者災害補償保険法の一部を改正する法律案に対する附帯決議
  政府は次の事項について努力すべきである。
 一、今後、職業病について、その
  範囲を明確にし、総合的立法を
  検討すること。
 二、長期療養者ならびに遺族の生活維持のため、今後補償率及び補償条件に適切なる改善を図ること。
 三、長期傷病補償を受ける者については、住宅その他の福利施設の確保等につき関係機関において配慮せられたいこと。
 四、けい肺患者、外傷性せき髄障害者のうち過去に打切補償のみによって災害補償を打切られ(労災保険法の適用を受けない者を含む)今回の長期傷病者補償を受けることのできない者については、療養生活を継続し得るよう政府関係機関において適切なる措置を講ずるよう配慮すること。
 右の附帯決議を付することについて採決いたしましたところ、全会一致をもって可決いたしました。
 以上報告いたします。(拍手)

○議長(松野鶴平君) 両案に対し、討論の通告がございます。順次発言を許します。坂本昭君。
   〔坂本昭君登壇、拍手〕