34-衆-本会議-16号 昭和35年03月29日
昭和三十五年三月二十九日(火曜日)
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議事日程 第十四号
昭和三十五年三月二十九日 午後一時開議
第一 地方税法の一部を改正する法律案(内閣提出)
第二 糸価安定特別会計法の一部を改正する法律案(内閣提出)
第三 国有林野事業特別会計法の一部を改正する法律案(内閣提出)
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○本日の会議に付した案件
日程第一 地方税法の一部を改正する法律案(内閣提出)
日程第二 糸価安定特別会計法の一部を改正する法律案(内閣提出)
日程第三 国有林野事業特別会計法の一部を改正する法律案(内閣提出)
所得に対する租税に関する二重課税の回避のための日本国とインドとの間の協定の締結について承認を求めるの件
関税及び貿易に関する一般協定へのスイス連邦の暫定的加入に関する宣言の締結について承認を求めるの件(参議院送付)
運輸省設置法の一部を改正する法律案(内閣提出)
農林漁業金融公庫法の一部を改正する法律案(内閣提出)
労働者災害補償保険法の一部を改正する法律案(内閣提出)
じん肺法案(内閣提出)
国鉄貨物運賃公共政策割引に関する緊急質問(菊川君子君提出)
中国地方開発促進に関する決議案(遠藤三郎君外五十名提出)
午後四時二十六分開議
[前略]
○議長(清瀬一郎君) 御異議なしと認めます。よって、日程は追加せられました。
労働者災害補償保険法の一部を改正する法律案、じん肺法案、右両案を一括して議題といたします。
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[中略]
○副議長(中村高一君) 討論の通告があります。順次これを許します。伊藤よし子君。
〔伊藤よし子君登壇〕
○伊藤よし子君 私は、日本社会党を代表いたしまして、ただいま議題になりました、じん肺法案並びに労働者災害補償保険法の一部を改正する法律案に対しまして、反対の討論をいたすものでございます。(拍手)
まず第一に、今回の政府案は、じん肺の予防、健康管理の面を、じん肺法で行ない、労災法の一部改正という形で長期傷病者に対する補償を行なおうとしておられます。今さら申し上げるまでもなく、じん肺は、予防が非常に困難な上に、病状が慢性的に重くなる進行性の疾病であり、また、現在の医学でも根治の療法がなく、死に至るまで進展するという特殊性を持った職業病でございます。
今回のじん肺法案が、単にけい肺のみでなく、石綿肺、アルミニウム肺等、広くじん肺一般を保護の対象とされたことは、妥当だと思うのでございますが、じん肺の多く発生する鉱山、炭鉱、窯業等の産業は、日本の産業経済上、また、国民の生活の上に必要欠くべからざる産業でございまして、このような産業に働く人たちは、今日、防塵マスクなどをして一定の予防措置を講じましても、なおかつ、じん肺の発生を防ぐことは困難であり、完全なる予防措置を講ずれば労働力を著しく阻害することになります。しかも、たれかが、このような粉塵を浴びて鉱石や石炭を掘り出し、れんがを作り、陶器を作らなければなりません。こうした社会の必要性から生まれてくる悲惨なじん肺病患者に対しまして、現行の臨時措置法を改正して、せっかく恒久立法としてじん肺法案を御提出になるならば、いま一歩進めて、総合的、抜本的な職業病全般に対する予防、健康管理、補償を一括した単独立法とすべきであると考えるのでございまして、その点、第一に、私どもが今度の政府案に対し強い不満を感じ、反対するゆえんでございます。
第二に、補償の点でございますが、政府は、現行の労災法を改正して補償を行なおうとしておられますが、労災法は、元来、偶発的事故を中心として作られている点から考えまして、じん肺のような職業病も、偶発的な事故による災害も、同一の範疇に入れて同一な扱いをすることは、職業病に対する企業主の責任と国家の保障という特殊の理念を弱めることになるのでありまして、この点は、社会保障制度審議会の答申にも指摘されているところでございます。ところが、政府は、一向にこの点についての配慮を払われておりません。これは非常に重大なる根本的な検討を要する問題と考えます。もちろん、せき損等の長期療養を要するお気の毒な方たちに対しては、現行法の不合理を是正して、安心して長期療養ができるようにしなければならぬことは当然のことでございます。
第三に、このような不治の傷病の発生する責任の所在でございますが、今回の改正によりますと、業務上の傷病に関する使用者の責任が不明確、あいまいでございまして、長期傷病者に対しては打切補償を支払ったものとみなされ、解雇制限の義務を解除されているのでございます。この点はきわめて重要なる点でございまして、長期傷病者の家族は、解雇によって社宅等から追われ、今まで受けていた各種の厚生福祉施設なども利用できなくなるのでございます。ただでさえ一家の働き手が不治の病気にかかり、何かと療養費もかさんでおります際に、生活保護程度の給付で解雇される家族の人たちのことを考えますと、私は寒心にたえません。これは、ぜひ、どうしても一定期間の解雇は制限すべきものと考えます。この点、政府案は、長期療養給付という美名の裏に隠れた心なき改正案といわなければなりません。(拍手)私は、この点を強く指摘する次第でございます。
第四に、じん肺患者にとって一番切実なる問題は補償の点でございます。今回の傷病給付の基礎になる平均賃金の算定の方法でございますが、これは、労働基準法に定める、休業に至る最終三カ月の平均賃金の二百四十日分となっております。この点、じん肺によって療養を必要とし、休業する場合には、すでに症状が進行していて、労働能力も低くなり、稼働日数も少なく、あるいは職場の転換等によりまして、毎月の収入も、健康時よりははるかに低い賃金で働いていると見なければなりません。このような立場の三カ月の平均賃金を基礎に補償給付をきめられることは、じん肺患者にとっては特に不利であり、酷であるといわざるを得ません。(拍手)この点、諸外国の例をとってみましても、業務上の長期傷病者に対する補償は、多いところは一〇〇%、少なくとも八〇%というのが通例でございます。この点も、政府の職業病としてのじん肺病に対する認識の不足と考え、私は強く指摘をしたいと思うのでございます。(拍手)
また、次に、今回の政府案では、じん肺は第一種と第二種に分け、入院と自宅療養者との給付に差別をつけておられますが、御承知のように、じん肺患者には、特に牛乳とか卵のような栄養食の補給が一般の疾病以上に必要であることは、医学的にも認められているところでございます。政府案がこのように一種と二種とに区別される真意は、入院患者を早く退院させる意図が隠されているのではないかという疑いすら持たれるのでございまして、この点も、私は政府案に反対する一つの点でございます。(拍手)
第五に、厚生年金保険法の障害年金との関係についてでございますが、今回の政府案では、長期傷病者補償を受ける労働者が、障害年金または廃疾年金を併給される場合には、国及び使用者の負担による部分として、障害年金の五七・五%、廃疾年金の七〇%に相当する額を減額することになっております。本来、厚生年金保険に加入していた者にとっては当然支払いを受くべき権利があると思うのでございまして、これを減額することは、私どもにとっては、とうてい納得できません。現に、老齢年金と障害年金は併給されることになっております。また、全額支給されても、平均して二千円程度の少額であり、平均賃金の六〇%にも満たないような長期療養給付者にとって、せっかくの厚生年金が減額されることは、まことに忍びがたいところであり、私どもは、これまた政府案に強く反対する点の一つでございます。
次に、私が今回の政府案で一番不審にたえないのは、遺族給付の点についてでございます。政府案によりますと、一年から六年までの間に段階をつけて、年々遺族給付を逓減することになっております。一家の主たる働き手にいつ死なれても、遺族にとっての打撃は同じことで、むしろ、長く病んでおればおるほど借金もふえ、家族の生活は苦しくなっていることは、想像にかたくありません。政府が、このような遺族に対し、療養期間の長短によって遺族給付を逓減している点は、私どもはとうてい納得できないところであります。いつ死亡いたしましても、現在の労災法の趣旨に従って千日分の遺族給付をすべきものと考え、この点も政府案に反対する次第でございます。(拍手)
以上、大まかに指摘いたしましても、今回の改正案については幾多の問題がございます。今回の政府の改正案が伝わりまするや、全国各地のけい肺患者からは、私どものところに深刻なる陳情が殺到しております。このように幾多の問題点を残し、慎重なる審議を要する今回のじん肺法と労災法の一部改正案は、年末に国会に提出されたとはいえ、実質的に委員会で審議が始まったのは今月の二十二日からでございまして、本日までの短時間に審議を終わり、採決いたしますことは、私どもは、この点について強く抗議を申し上げたいところでございます。(拍手)本日の委員会におきましても、わが党は、徹底的な検討の期間を持つために、現行措置法を一カ年延長する法律案を提出したのでございますが、残念ながら、与党の委員の賛成を得ることができないで否決されました。私ども野党の、委員会における激しい追及に対して、これを無視できず、今日、自民党から政府案に対する修正案が提出されましたが、これはまことにおざなりな、弁解的な修正でございまして、ただいまあげましたような根本的な問題について少しも解決するものではございません。もちろん、不合理なる現行の臨時措置法を改正することは急務ではございますが、せっかく恒久立法を出すならば、今日の日本の産業発展に伴って今まで予想もしなかったような各種の職業病も発生して参っていることでもございますし、また、今日、社会問題化しておる現状から申しましても、最初に申し上げましたように、総合的、抜本的な職業病全般に対する予防、健康管理と補償とが一貫したりっぱな恒久立法を作るためには、いま一カ年間臨時措置法を延長してもやむを得ないではないかと考える次第でございます。全国のじん肺患者にとりましても、必ずやその方を望むと私は信ずる次第でございます。
時あたかも、わが国は国民皆保険、皆年金の時代に入ったことでもございますので、わが国の社会保障制度の総合的な調整の問題等ともにうみ合わせまして、職業病全体にわたる一貫した恒久立法を作るため、今からでもおそくはございませんから、政府案を撤回されまして、現行の臨時措置法をいま一カ年延長することを重ねて私は強く主張いたしまして、私の討論を終わりたいと存じます。(拍手)
○副議長(中村高一君) 本島百合子君。
〔本島百合子君登壇〕
[後略]