34-衆-社会労働委員会-20号 昭和35年03月22日

昭和三十五年三月二十二日(火曜日)午前十時四十四分開議
 出席委員
   委員長 永山 忠則君
   理事 大石 武一君 理事 大坪 保雄君
   理事 田中 正巳君 理事 八田 貞義君
   理事 藤本 捨助君 理事 滝井 義高君
   理事 八木 一男君 理事 堤 ツルヨ君
      池田 清志君    大橋 武夫君
      亀山 孝一君    齋藤 邦吉君
      柳谷清三郎君    亘  四郎君
      赤松  勇君    伊藤よし子君
      大原  亨君    小林  進君
      五島 虎雄君    中村 英男君
      佐々木良作君    本島百合子君
 出席国務大臣
        労 働 大 臣 松野 頼三君
 出席政府委員
        労働基準監督官(労働基準局長) 澁谷 直藏君
 委員外の出席者
        労働基準監督官(労働基準局労災補償部長) 村上 茂利君
        専  門  員 川井 章知君
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三月二十二日
 委員河上丈太郎君及び木下哲君辞任につき、その補欠として小林進君及び佐々木良作君が議長の指名で委員に選任された。
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[中略]
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三月十八日
[中略]
 保健所医師の定員確保等に関する陳情書(東京都議会議長内田道治外九名)(第五四九号)
は本委員会に参考送付された。
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本日の会議に付した案件
 労働者災害補償保険法の一部を改正する法律案(内閣提出第三号)
 じん肺法案(内閣提出第四号)
 労働関係の基本施策に関する件
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○永山委員長 これより会議を開きます。
 内閣提出の労働者災害補償保険法の一部を改正する法律案及びじん肺法案の両案を一括議題とし、審査を進めます。
 質疑の通告がありますので、これを許します。伊藤よし子君。

○伊藤(よ)委員 じん肺法の改正にあたりましては非常に関係各方面の関心や、患者の間に不安を巻き起こしておりまして、社会問題も含むような重大な法律であると思います。もう三月も半ば過ぎになりまして、今初めてこの法案の審議が始まるわけでございますが、このじん肺法につきましては審議会や何かでも労使の意見も完全にまだ一致していないままにこの法案が提出されたようでございまして、この短い時間の間には十分な各方面の、大衆の意見なんかも反映されないと思うのでございます。たとえば愛知県なんかにおきましても、こういうじん肺の出る関係の地方では、各地方議会におきまして議決などをしておりまして、これは一つの例でございますが、陶器の出ます瀬戸市の議会など、こういうような市議会で、これは二月の十六日でございますが、市議会で意見をまとめて議決をしたというのが私どものところへ出ております。これははかにも同じようなことが、常滑市やあるいは他の県にもあるようでございますので、参考のため、私はこれを読んでみたいと思います。「じん肺法制定ならびに労働者災害補償保険法改正に関する要望について」愛知県瀬戸市の議会でございますが、その「主旨」といたしまして「じん肺法の制定ならびに、これに伴う労働者災害保険法の改正に当り、つぎの諸点について、ぜひともご考慮たまわりたい。(1)粉じん作業者に対して、年一回を原則とするじん肺健康診断を規定し、患者の早期発見をはかるほか、予防措置についても、具体的な規定を設けられたいこと。(2)じん療養者に対しては、その期間中、休業補償として賃金の一〇〇パーセントを支給するとともに、賃金スライドが簡単にしかも確実にできるように、措置されたいこと。(3)療養費については、自宅療養の場合にも、全額を支給するようにされたいこと。(4)遺族給付については、療養期間の長短にかかわらず、賃金の一、〇〇〇日分を支給するようにされたいこと。(5)現に、けい肺特別保護法および、同臨時措置法の適用をうけている者の経過措置については、補償条件、補償率が引下げにならないよう、適切な取扱いを講じられたいこと。」そういうようなことを議決いたしまして私どものところへ陳情がきているわけでございます。このように各地方に非常に重大な関心が高まり、社会問題化しておる際でございますので、私はわずかな短い時間では十分なる審議が尽くされないと思います。この点につきましてせっかく恒久立法をお作りになるならば、いま少し慎重な審議を尽くしまして、期間をかけましておやりになる意思はないか。暫定的に、いま一年でも暫定法を延ばしておきまして、恒久立法をおやりになるような意思はないか、最初にそれを伺っておきたいと思います。

○松野国務大臣 今回のじん肺法は、昨年のときに審議会を開いて一年以内に法案を出せというお約束で、政府はその通り実施いたしまして、この提案をいたしましたのは昨年の十二月の二十九日だと記憶します。約九十日の予定をもって急いで成案を得て提案をいたしたわけでありますので、三月三十一日で切れるという重要な時期もございますので、政府としては慎重な態度をとり、しかも迅速に成案を得るようにいたしたわけでございます。これをさらに一年延ばすということは非常に不可能なことである。なお今回は新たにけい肺からじん肺に変わっております。同時に労災保険の方は新しく重要な病気がみな入っております。そうすると一年かりに延ばしたというならば、新しく今回入る他の重症患者は全然入れなくなるという問題も出て参ります。なおけい肺からじん肺に広げておるところもございます。しかも三月三十一日という期限がついておりますので、この三つの点から、政府としては絶対延ばすことは無理だ、その意味で提案をしておりますので、なるべく迅速に御審議を願いたいと心からお願いするわけであります。

○伊藤(よ)委員 ただいま労働大臣のお言葉の中に、急いでという言葉がございましたが、非常に気の毒なじん肺患者に対して、非常に重大な関心の的でございますし、ただいま申しますような社会問題化する点もございますので、よく関係地方の大衆の意向なども反映するような機関、たとえば公聴会なんかもお開きになって十分審議を尽くす意味におきまして、なお一年くらいの期間をお待ちになって慎重な審議をお尽くしになる必要があるのじゃないか。わずかな短い時間では十分でないと考えるわけであります。
 それにつきましては逐次これから申し述べたいと存じますが、今回政府が御提出になりましたじん肺法案と労災法の一部を改正する法案につきまして、これはじん肺法の方で健康管理、予防をなさいまして、それから補償の部分を労災法の一部改正という形で長期傷病者に対する補償を行なおうとしておられるのであります。申し上げるまでもなく、じん肺は予防が非常に困難な上に、病状が慢性的に重くなる進行性の疾病でございますし、また現在医学的にも根治療法がなく、死に至るまで進展するという特殊性を持った職業病でございます。このことは、一九三四年のILOの総会でもすでに放射線障害や、昨年わが国でもようやく問題になって参りましたベンゾール中毒などと同様に、けい肺が職業病として取り上げられておりまして、労働者職業病補償に関する条約として採択されていることからでも明らかでございます。今回政府のじん肺法案が単にけい肺のみではなく、石綿肺、アルミニウム肺等、広くじん肺一般を保護の対象とされたことについては大へんけっこうと思いますが、しかしじん肺の多く発生いたします鉱山や炭鉱、窯業等の産業は、日本の産業経済上また国民生活の面に必要欠くべからざる産業でございまして、このような産業に働く人は今日防塵マスクなどをしまして、一定の予防措置を講じましても、なおかつじん肺の発生を防ぐことは非常に困難でございます。完全な予防措置をとれば労働力が著しく阻害されます。ですから予防ということが非常に困難でございます。しかもだれかがこのような粉塵を浴びて、石炭や鉱石を掘り出し、れんがを作ったり茶わんを作らなければなりません。こうした社会の必要性から生まれてくるような非惨なじん肺病に対しまして、現行の措置法を改正してじん肺法をお出しになるという御趣旨は私も大へんけっこうだと思うのでございますが、せっかく恒久立法として御提出になるとしたら、ほんとうに慎重な審議をされまして、そして関係地方、関係労働者の意向などもよく取り入れまして、いま一歩進めて総合的、抜本的な職業病全般に対する予防、健康管理、補償、一括しました単独立法として御提出になるべきではないかと考えますが、いま一度この点について大臣のお考えを伺いたいと思います。

○松野国務大臣 ただいまのお話もありましたように、けい肺だけが職業病だと限定する時勢はもう過ぎて、産業病的な観点から、産業人を保護するという方に前進しませんと、今後においてベンゾール中毒にはベンゾール中毒の単独法を作らなければならない、潜水病には潜水病の単独立法を作らなければならないということでは、やはり広い意味において安全性がない、また産業に働く者にとっては安定性がないという意味で、こういうものはすべて入れるのだという大きな方針を示すことが、産業人に対する一つの非常に大きな功績じゃなかろうか。今まではけい肺だけで済んだかもしれません。今回はいろいろな病気、いわゆる重度の産業災害がみな入るので、もしかりにこの法案が三月三十一日に通りませんと、その方たちは絶対に入れないのだといえば非常に不幸な事態を招くのじゃなかろうか、けい肺だけについて議論するよりも、産業病という広い意味から議論しませんと、けい肺だけは臨時立法があったからいいが、ほかのものにはないから、そうなるとない方が非常にお気の毒な立場をとる、これは将来の産業のために不安定だ。今回のものはアルミニウム肺も入っております。放射線も入っております。総合的な、いわゆる産業的な重度の災害を今回は含めたもので、これは労災保険の改正の方に入っております。従って今回はけい肺にはじん肺というワクを広げ、労災保険の方にはあらゆる重度の産業人を補償するという新しいワクを設けております。従ってその意味では、一般労働者については非常に大きな幸福を目の前にもたらす法律であります。従って私たちも慎重にやりまして、しかも時間的には迅速な作業をいたしまして今回出したわけで、政府としては数年以来の議会におきましても議論の多いところでありますので、審議会を作り、その答申を得て、時間的には非常に忙しい中におきましても、四月という目標をきめまして迅速に事務処理をいたしたわけであります。政府としては慎重審議の結果であります。提案はどうしても十二月中にいたさなければ議会に御迷惑をかけますので、十二月中にこの法案だけはほかの法案よりも急いで、迅速に出したのであります。

[後略]